大気汚染問題に躍起になるバンコク

タイの大気汚染問題に詳しいスパット・ワンウォンワタナー氏が、この十年でバンコクで変わったことと聞かれると必ず見せる写真が2枚あります。

1枚はかつてスモッグに覆われた街が、自慢できるくらいのきれいな青空に囲まれています。
 
これは1990年代半ばに撮影したもので、中心都市バンコクのスカイラインが見えます。ほとんどの建物はシルエットしか見えず、深いもやに包み隠されています。その当時、バンコクで最も高いとされたバイヨークタワー2はまだ工事中でした。

2枚目は、同じアングルで10年後に撮影したものですが、劇的に違うのが目に見えてわかります。雲の無い青い空と太陽の光に包まれる建物が見えます。

 「1990年代初期のディーゼル燃料とガソリンに含まれる硫黄は10,000パーツ・パー・ミリオン(ppm)でした。現在は、50ppmにも満たない数値です。」(同氏コメント)

これは、石油の天然成分が大気汚染の原因だということを裏付けています。

「科学技術の進歩によって排出ガスの削減が可能となりました。」(同氏コメント)

例として、クリーンな燃料を製造する加工工程、触媒コンバーターによって使い古されたパイプから出るガスの有毒成分を減らすことが挙げられています。
 
世界保健機関(WHO)は大気汚染について「公衆衛生上の緊急事態」と位置づけています。また同機関のデータによると、2012年には計算上650万人もの人々が室内外における大気汚染に関連する理由で死亡しています。これは全世界の死亡者数の12%に当たり、その大部分は大西洋と南アジア地域だと言われています。

「仮に20年、25年先まで何も対策をしていなければ、今頃バンコクがどうなっていたか私は想像できません。大気汚染によって人々は病に倒れていたかもしれませんね。」とスパット氏は身震いをします。
 
タイ天然資源環境省の公害管理局(PCD)前長官は、テクノクラシー提唱者の一人でありますが、1990年代バンコクの大気汚染抑制取り組みを指揮しました。

公害管理局は、石油会社や自動車産業からの強い抵抗にもかかわらず、燃料から鉛成分を取り除き、ヨーロッパの規定に基づいた排出ガスの調整を取り組み、工事用敷地の規制を実施しました。

今ではタクシーはクリーンな液化石油ガスや圧縮天然ガス燃料で走行し、オートバイも真っ黒な排気ガスを出しながら走ることはありません。

専門家によると、これらの取り組みによって、バンコクは北京やデリーのような他の大都市のような状況は回避できているといいます。

しかしながら、バンコクに住む熱狂的な車愛好家によって、再び大気汚染レベルが危機にさらされていると警告されています。2013年、国内で49,000人近くが大気汚染によって死亡していると、世界銀行とワシントン大学の共同研究が報告しています。

バンコク中心部のほとんどの場所は安全なレベルであると空気質指数(AQI)により明らかになっていますが、多大な健康リスクを引き起こすPM2.5のような微粒子はここに含まれていません。国際連合の事務局によると、バンコクのこれらの粒子の年間平均数はWHOが規定する数値の2.4倍であるといわれています。

「PM2.5は血管に侵入し、慢性的な健康被害を引き起こします。」と、グリーンピース東南アジアタイ国長官のタラ・ブアカムスリ氏は述べました。もしも空気質指数にこれらの粒子が含まれなければ、「包括的な見通しが立てられないでしょう。」と付け加えました。

厳しい排出ガスの限界値

専門家によると、900万人が居住しており労働人口にすれば1000万人以上になるバンコクでは、毎年乗用車の走行数は増加しているものの、比較的スモッグのない状態であると言われています。2017年最初の4ヶ月でバスやオートバイも含めて30万台が新たに導入され、合計で950万台にもなりました。

カーナビ会社のTomTomの世界交通指数で、メキシコシティに次ぐ交通渋滞のひどい国際都市ワースト2位にも関わらず、バンコクは人気観光地の空気の品質ランキングでは2015年はトップでした。

迅速な対応が求められる

「1990年代以降、乗用車の数は増加しています。そのため渋滞や排気ガスもさらに酷くなっています。これは大変な試練です。」とビチット・ラッタクル氏は述べました。同氏は1996年にバンコク都知事に選出され、その10年前に反大気汚染と環境保護財団を設立しています。

この試練の為に、PCDはユーロ5規定に同意する準備段階まで漕ぎ着けました。ユーロ5規定とは燃料の汚染物質の更なる制限で、2023年までの実現に石油各社が、2024年までの実現に自動車各社が同意しています。

「タイ政府がタイの産業界とともにこれらの政策を実行することが重要です。」と、タイ自動車産業技術協会会長であり、トヨタモータータイランドの副部長のティーラ・プラソンチャン氏は述べました。

現在はユーロ6が最新規定ですが、タイでは2012年よりユーロ4が採用されています。

30年間大気汚染問題に従事した後に退職。その後もPCDを支援しているスパット氏は、「過去6〜7年の改良は長い道のりのように見えても耐え忍ぶに値するものだ」と述べました。また大切なことは「計画を練ってそれを信じることです。」(同氏コメント)

好まれない決断

バンコクは他の東南アジア諸国の大気汚染を改善する手本であると、マニラを拠点としたNGO団体クリーン・エア・アジア副本部長のグリンダ・バタン・バテリーナ氏は述べました。また、これらの「排気ガス問題解決」については部分的に乗用車の排出ガスにテコを入れただけだと記しています。

「本当の意味での解決策としては、都市部への行き来に一度に大勢が利用できる交通システムが必要です。それは自家用車を使わないように促すためです。」と同氏。

バンコクは電車の本数を12本増本する計画中ですが、2029年までの実現は難しいでしょう。

その他、低排出ガスの電気自動車やハイブリッド車はいまだにタイでは普及していません。トヨタ社のティーラ氏によると、自動車製造業者はインフラやエネルギー供給の点での懸念がある為、対応を伺っています。

その一方、政治家や都市のリーダーたちは居住者の安全と健康を守る為、より高い空気質の基準を設ける必要があります。「最終的に行政は悪い場所を立ち入り禁止にすることができます。しかし、それは行政の目指すべき方向ではありません。」と同氏は語りました。

オフィスでのインタビュー中にビチット氏は、午後の時間帯のバンコク中心部にあるシーロム通りは人々から避けられるくらい大気汚染が深刻であるとため息をついていました。

「皆さん私をあまりよく思っていませんでした。毎朝車で家まで来て騒音を出していました。自動車業界からの大きなヤジです。」同氏は思い出しながらこうも述べました。「でも私には、そのヤジはあまり聞こえませんでした。」と。