年配者向けのアプリから、医師が患者治療の効率化を目的としたビッグデータ分析にわたっており、ヘルスケア業界は変革の黄金時代に突入しています。
ヘルスケアの科学技術の発展により、非常に多くの人々が長生きするようになりましたが、高齢者が増えることで制度の限界が問題になりつつあります。病院は混雑を極め、特別な治療の為に長時間待たされ、看護・介護者も数に限りがあります。また高価な必須医薬品は多くの国でも事実として存在します。
90歳または100歳まで当たり前に生きる時代に社会は機能できるでしょうか、また全ての人々がより長生きするための費用はあるのでしょうか。以前は実際の治療を重視しており、現代ではヘルスケアコストを確保するため、健康診断や財源の有効活用により、予防に重点が置かれています。
「新しくさらに良い治療法を開発導入し、様々な病気、慢性疾患、特に高齢化社会において継続的に変革起こすことを目的に製薬会社やヘルスケア従者は事業を行っています。」とリアツ・ブクシュ氏は述べました。同氏は、タイバイエル製薬部門長でカンボジア・ミャンマー・ラオスも管轄しています。
世界銀行によると、2050年までにアジア太平洋の4人に1人が60歳以上となります。製薬業界にとって、新薬の導入、そしてその薬をコンプライアンスとアドヒアランスの概念に基づき、患者自身が正しく摂取することで、ヘルスケア従者が患者により良い治療ができることを意味します。
高齢者向けの主な試みの一つとして、処方された薬を摂取することを覚えることというのがあります。高齢者は物事を忘れっぽくなりがちです。また年を重ねると、体調が一定に定まらず、中には慢性疾患を抱えている人も出てきます。
患者が正しく薬を摂取すれば、体調は良くなり薬の量も抑えられます。患者の負担費用が縮小され、政府の高齢者支援計画にとっても低いコストでの実現が見込めます。
「年を重ねて慢性疾患のリスクにさらされることは、結果的に様々な病気にかかり、いくつもの薬を摂取してしまう複雑な状態です。」とブクシュ氏。
実際のところはどうでしょうか。世界保健機関の世界医薬品状況のレポートによると、アジア太平洋における半数の患者は継続的に長期治療に頼らずにいます。
研究者が科学技術による患者コンプライアンスの向上を重要視しているのは周知の事実です。最近シンガポールで新たに開催されたGrants4Appsコンテストにも注目が集まっています。バイエル、NUSエンタープライズ、シンガポール国立大学がそのスポンサーをしています。
タイを拠点に開始したPillPocketは、第1回目のコンテストで集まった80のアプリの中から選ばれた3つのうちの1つです。他の2つはシンガポールのHolmusk(ホルムスク)社によるEyeDEAとGlycoLeapでした。
PillPocketは高血圧、高血中コレステロール、糖尿病の疾患を持つ患者あてに、薬剤師が直接アドバイスする仕組みのアプリです。モバイル端末用アプリの構成要素として継続的なケア、追加投薬や自宅への配送、無料の患者対応の薬剤師業務と連携されるチャットボットを搭載しています。
「中には薬を手に入れる為に、毎日早朝に起きる人、遠方からわざわざ出向く人、病院で薬が出てくるのを待っている人がいます。それでも到着するころには既に薬が尽きてしまうこともあります。つまり患者はあるのか分からないたった少しの薬を手に入れる為に1日を棒に振っているのです。」とPillPocket創始者のクリッティン・ティップサン氏はAsia Focusで発言しています。
またPillPocketには医薬品のチャットからアラームが出るリマインダー機能や、ユーザーが自身の健康状態を把握するのに役立つ機能があります。
一方、EyeDEAは1つで2役のメディケーションカードと高齢の緑内障患者が目薬を使用するよう身に着けるタイプのディバイスを開発中です。個人用の財布サイズのメディケーションカードによって簡単に必要な医薬品を提示することができます。
カスタマイズされた着用ディバイスには、緑内障患者向けに目薬を使用するタイミングでのアラームリマインダー機能があり、使用履歴も確認することもできます。そのデータは自動で医者と看護・介護者に共有されます。これは目が不自由でスマートフォンが苦手な高齢者にとってはとても画期的なソリューションです。
着用ディバイスはスマートフォンに繋げるとヘルスケア業界にとって大革命になる可能性を持っています。
それは、集められたデータで、心拍数、血圧、ストレスレベル、その他体調に関するバロメーターをリアルタイムでチェックすることができ、容易に担当者と共有することができます。
アプリは高齢化と関連した全ての問題に対応することはできませんが、正しい方向性で進んでいいるとブクシュ氏は考えています。しかしながら、開発中の社内アプリは多くの慣例的なヘルスケアビジネスにとって選択肢には入らないかもしれません。
<代表的な健康管理アプリ(アンドロイド版)>
タニタの無料健康管理アプリ ヘルスプラネット
超じぶん管理「リズムケア」
*リンクはアンドロイドのアプリダウンロードページへ飛びます。
別の方法として企業合併など組織を越えた成長戦略があります。しかし、このアプローチを続ける企業は必要な従来からあるヘルスケア事業者ではありません。
中国の最大インターネット会社の一つ、テンセント社は60以上もの事業を展開しており投資部門、調査部門、そしてそれらの約40%は健康事業に関連しています。
中国の同業他社であるアリババやバイドゥとともに、テンセントは現在イスラエルにチームを配置し、非営利団体エムmHealth Israel(エムヘルス・イスラエル)の創始者であるレヴィ・シャピロ氏とヘルスケア事業開始を模索しています。
日本を代表するインターネット及び通信会社のソフトバンクグループはTechMatrix(テックマトリックス)社と提携して、病院がレントゲン・CTスキャン・MRI画像などの医療データを共有できる手段を作り上げました。
X線技師は画像上の影や色から異常の有無、またはガン組織などの状態を検査します。しかし、未来の医者は患者に関するデータを見て、似たような症状と対比させるアルゴリズムを使うようになっているでしょう。
KPMGによると、ヘルスケア関連のベンチャー企業に対し、5年前の倍にあたる合計13.7億USドル規模、97の投資がなされました。アジアのヘルスケア業界では、昨年、医薬品やバイオ企業がベンチャーとして操業開始しています。このことから、ヘルスケア市場への潜在的関心が高まっていることがわかります。日本を除くアジアでは、2016年は3,000億USドル市場でしたが、2025年までに8,000億USドルまで規模が拡大するでしょう。
日本はアジアで唯一の寿命が80歳を超えている国ですが、ヘルスケアの市場規模は現在1,800億USドル、2025年までには2,000億USドルが見込まれます。特に注目されているのが30代40代とバリバリ働く若い世代が、これからの高齢化社会に伴って、少しでも長く健康で働くことを考えられているからです。
新薬の研究開発は非常にコストがかかりますが、ほとんどの治療は既に症例があり、新技術によって治療に費やす期間は減っています。現在では治療よりも予防に重きを置くよう変わってきています。(先述のブクシュ氏コメント)
Frost&Sullivan社はヘルスケアに関するコストのうち、治療費はトータルの70%を占めていた2007年に比べ、2025年には51%まで縮小されると算定しています。一方、調査により、予防や健康診断は30%から49%に拡大すると予想されています。
マッキンゼーアンドカンパニー社はビッグデータの活用と予防重視の風潮によって、アメリカ国内のヘルスケア費用は3,000億USドルと4,500億USドル程、または2011年に国が支出した2.6兆USドルの内12−17%の減少に繋がると予想しています。
マッキンゼー社はさらに、心臓病のリスクを抱える人が適切にアスピリンを使用すること、早期のコレステロールスクリーニング検査と禁煙を組み合わせることで、約300億USドル以上のコストが削減されると算定しました。
Asthmapolis(アズマポリス)社によって開発された新モニタリングディバイスには、ぜんそく患者の吸入器使用を記録するGPS追跡機能が入っています。そのデータは医療担当者が個人の治療計画や的を絞った予防に役立つはずです。
その他には、メンタルヘルス治療を支援するGinger.ioというモバイルアプリがあります。もしも患者が体調不良になったり不安感を感じた際、患者が共有することに同意したデータ(電話番号、メール、居住地、体調等)が医療担当者へ伝えられます。それらによって患者が動いていないことや睡眠パターンが不安定であると医療担当者が気が付くことができます。
アプリ、チャットボット、着用型テクノロジー、ビッグデータは未来のヘルスケアの形態であるのは明らかです。専門家がリアルタイムでチェックするので、患者は病院で過ごす時間が減るでしょう。しかしながら、医療専門家はそれでもなお従来の方法から変更する気はないとブクシュ氏は考えています。また「少なくとも私が生きている間に人間の医療従事者の代わりに人工知能が全てを行うようなことは起こらないでしょう。しかしそれでも我々が科学技術を用いた実用品を継続して開発することで、ヘルスケア業界の質向上につながりますし、良いことに変わりはありません。」
自己治療の危険から守るには「人間味」が絶対必要です。特に処方箋を用いるような場合、優秀な専門家が直接診察して、指導もすることは緊急時には重要となります。
「導入が完了するまでに、この業務が残るよう祈っています。」とシンガポール国立視覚センターのウォン・ティエン・イン教授は硬い表情で述べました。
「厄介だなというのが本音ですが、少し活用先としては不向きですね。我々が習得してきた技術は人間味で簡単に置き代えられるはずがないと、ほとんどの医療従事者は今実感しています。」と同教授はNUSエンタープライズ社主催の講演会で述べました。
「これには患者の声を聴き、患者を治療するという感情移入も含みます。患者のニーズや治療に関する全てのことについて理解をすることは、簡単に人間以外の代替品をたてることはできません。」
しかしながら、医者が望んでいない業務も多々あり、ウォン教授はこれらの業務はテクノロジーに委ねることに対して前向きです。例えば医師が大量の検査を行い、その分析に膨大な時間を費やしてデータを処理することが挙げられます。
「コンピュータで処理をするのに、なぜこれを人間がやる必要があるのでしょうか?グーグルで何か検索しようとして、アルゴリズムの仕組みについて知ろうとは思いませんよね。知りたいのは答えですよね。」と同教授は述べました。